堅物で、口うるさい番頭の治兵衛。 実は大変な粋人で、今日も「用事」と言って店を出たが、 柳橋の船宿に預けてあった「オツななり」に着替えると、 幇間芸者衆を引き連れ船で向島に出かける。 初めは慎重だった治兵衛も酒の勢いで土手に上がる。 由良之助気取りの目隠しで芸者相手に鬼ごっこをしていると、 偶然、花見に来ていた店の主人に出くわしてしまう。 「お久しぶりでございます。」と、土下座し、 慌てて店に駆け戻ったが、真面目一本で通してきた治兵衛は、 首にされるか?一度くらいはお目溢ししてもらえるか?と、 悩み眠れずに朝を迎える。 しばらく経って、主人から呼び出しを受け、覚悟を決めて 主人の元へ行くと、怒られると思いきや、日頃の勤めぶりを 褒められ、「ただ、もう少し下の者を気遣ってやるように。」と、 やさしく諭される。 最後に主人が、 「昨日バッタリ逢った時、”お久しぶり ”と、言ったのは どういう訳だい?」 「あんなザマでお目にかかっては、もうこれが百年目かと思いました。」 |