士族の商法(CAB)

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明治の初め、職を失った士族が汁粉屋を始めた。
男がこの汁粉屋に入ってみると、御家来に迎えられる。
「何の汁粉を食べるのだ。」
と聞かれるが、下げ札(お品書き)が見当たらない。
聞けば、
「今、蝋色金蒔絵の下げ札を誂えてる所だ。まだ出来上がってこない。」
と、言われ口頭で説明される。
「御膳汁粉が普通の汁粉。紅餡は紅を入れただけ。塩餡は焼塩を入れただけだ。」
男が塩餡を注文すると、
「さようか、しばらく控えていさっしゃい。」
と、御家来は奥で餡を練っている殿様へ報告する。
「御前、町人が塩餡をくれろと申しますが、いかが仕りましょう?」
「くれろと言うなら、やるがよい。」
しばらくすると、御姫様が小笠原流の目八分に膳を持って給仕に現れる。
「町人、お前代りを食べるか?”
「ありがとうございます。頂戴いたしたいもので...」
「少々 控えていや。」
これでは窮屈でたまらない。
と、無理矢理一杯かっ込んで店を飛び出したが、慌てていたので煙草入れを忘れてしまう。
すると後ろから御姫様が追いかけてきて、
「これ町人、これはお前の煙草入れだろう。粗忽だの。以後気を付きゃ。」
と、どちらが客だか判らない。






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