弐人乗りの車夫さん。その懐で赤ん坊が泣く。客の一人が、「大変だ」ってんで車を止めて氷屋で話を聞くと、女房が死んで独りで育てていると言う。余りに貧乏で甘酒一つ買ってやれない。葬式出したその晩の枕元に、女房が出た。「子供が泣いたら私の着物を掛けてやって下さい。」乳のでない男手一つ、その通りにすると、子供はピチャピチャ吸っとる様子。それからというもの、車が坂にかかると、女房が後押ししてくれるから楽んなった。更には、そのことが近所で「幽霊車」と評判になったそうな。「冗談じゃねえ、もういい」ってんで、そこそこにお銭を渡して、客二人は慌てて氷屋を飛び出す。「あの車、汚ねえったらねえ。その上幽霊車だと言いやがる」と言うと、もう一人の客が「まさに幽霊車たあ、あのことだ」「どうしてだい?」「お前さん、よく見てねえんで?」「あー!道理であの車夫、おあしが無かった」
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