剣術に凝って、商いもそっちのけで道場通いをする八百屋の久六。たまりかねた女房が久六に道場を休んで商いに精を出すようせまる。 久六は家の蚊帳まで質に入れてしまったため、子どもが蚊に食われて頭がでこぼこになってしまった。久六は女房と押し問答の末に、道場主に休みたいと申し出る。剣術の先生は、 「貴公は見所があるによって…。」と止めようとする。 久六は、蚊に悩まされていることを話す。すると道場主は 「しからば、蚊と一戦交えよ。」と策を授ける。 「貴公の家を城と見なし、細君は北の方、子どもは若殿、表口は大手、裏口は搦手、引き窓は櫓とみなし、これを全て開け放って、敵を油断させ城内に招き入れる。敵軍が入ってきたなら城門を閉め蚊をいぶし、その後開け放って蚊を外へ逃がし、また閉めてしまえば良い。」 と久六に言う。 「けむくとも のちは寝やすき 蚊遣りかな、と申すではないか。一匹二匹の落ち武者は平手で打ち殺せ。」と久六をあおる。 久六は、家に帰ると道場の先生に言われたとおり 久六「やぁやぁ敵の面々よっく聞けぃ。今夜は蚊帳を吊らんぞや。来たれや来た れ…。」 女房「ばかだね。この人は。みっともないじゃぁないか。蚊帳のないことが近所中に聞こえちゃうじゃないか。」 久六「蚊帳のないことが敵に知れて見ろ。大将の計略が水の泡になる。」 さて、策の通り蚊をおびき寄せ蚊遣りを焚いていぶすが、久六親子三人もいぶされて苦しくなる。あげくに、数匹の落ち武者の蚊が、久六に襲いかかる。 手打ちにしてくれよう、と久六も奮闘するが、太刀打ちできない。 久六「あーぁ、とてもかなわぬ。北の方、城をあけ渡そうぞ。」
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